北陸物語

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自然と人が織りなす心象的な雪景色

"北陸は雪国"。これはいうまでもないことかも知れませんが、雪の少ない地方の皆さんにとって、この「雪国」という響きに旅情をかき立てられるという方も多いでしょう。


兼六園の雪景色

でも、実際に雪国に住む者にとっては、雪は少々厄介な存在でもあります。北陸の冬は、それほど寒くありません。そのため湿気の多い雪が降ります。重たい雪がたっぷりと積もるので、屋根の雪おろしや家の周りの雪かきは大変な重労働です。兼六園の冬の風物詩として知られる「雪吊り」は、よく観光用の飾りと勘違いされますが、そんな重たい雪で庭木の枝が折れないように枝を吊っているもので、この地方では一般の家庭や街路樹でもよく見られます。

豪雪地帯の続く日本海側でも、大陸沿岸からの距離が長く、朝鮮半島の地形の影響もあって、特に新潟県から福井県にかけての山間部は雪が深く、「日本一の豪雪地帯」といわれます。

北陸各県の共通の県民性として「辛抱強い」ということが挙げられますが、これを培ってきたのが雪の中での暮らしだといわれます。しかし、北陸の人々は雪にただじっと耐えてきたわけではありません。実は雪とうまく折り合いを付け、さらにそれを巧みに利用してきました。

たくさん積もる雪を利用してきた先人たちの智恵

福井県内で屈指の豪雪地帯・南越前町の今庄いまじょうは、北陸街道や北国ほっこく街道を西から北上して北陸に入った最初の宿場町として栄えました。山に積もった大量の雪がけい石岩盤層を潜り抜け、酒造りに最適な中性の超軟水となって豊富に湧き、この水と宿場という地の利も活かし、今庄では古くから酒造りが盛ん。今もJR今庄駅からすぐの旧北陸街道沿いには、4軒の造り酒屋があります。


北善商店の冬季限定「一番蔵出し」や代表銘柄など

そのうちの1軒、蔵元自らが杜氏とうじも務める北善きたぜん商店を訪ねました。十代目当主、北村啓泰さんによると、外気温が2~3度、蔵の中が5~6度という条件が低温発酵させる北陸流の酒造りには最適で、雪が降っていると夜間の気温は安定し、雪があれば日中晴れても気温上昇が抑えられ、その最適な条件が保たれるそうです。気温が上下すると酵母がヘタっていい酒ができないといい、さらに湿度も保てる豪雪地帯は、酒造りに適した場所なのです。

「寝る前、夜空を見上げて星が瞬こうものなら、放射冷却で冷え込みますから、気が気でありません。でも、雪が降っていると安心して眠れますよ」と北村さんは話します。


米を蒸す湯気が立ち上る冬の酒蔵(左)。北村啓泰さん(右)


氷室仕込み


今は7月1日に食べられる氷室まんじゅう

電気冷蔵庫など無かった時代、夏に氷を使うことはごく一部の特権階級だけの贅沢でした。「氷室ひむろ」や「雪室」を作って氷や雪を貯蔵し、夏でも氷を口にしたり、食料を冷やして貯蔵したり、さらに熱が出たときに体を冷やしたりと、誰でもとはいきませんでしたが、北陸ではそんな贅沢を比較的享受しやすかったようです。

加賀藩では「氷室の節句」(陰暦の6月1日)にあわせて氷室を開き幕府へ氷を献上していました。その氷が無事に江戸に届くことと、無病息災を祈りつつ庶民が食したのが「氷室まんじゅう」です。その後、氷室開きは一時廃れてしまいましたが(昭和61年から湯涌ゆわく温泉で復活)、「氷室まんじゅう」を食べる慣わしは金沢を中心に今も根づき、時期になるとコンビニでも買うことができます。

日本の原風景は雪との共存共栄のスタイルでもあった

北陸で、最も雪景色が似あう暮らしの風景として多くの人が思い浮かべるのは、五箇山の合掌造り集落でしょう。合掌造りの急傾斜の屋根裏は幾層にもなり、ここではかつて養蚕ようさんなどが行われていました。また、屋内では和紙作りや、床下では加賀藩の命を受け、幕府に隠れて煙硝えんしょう(塩硝)作りも行っていました。合掌造りの家々は、人の住まいだけでなく、家内工場としても機能し、雪に囲まれ静かな銀世界の集落の家中では、人々がせわしなく働いていたのかもしれません。

五箇山は今も和紙の産地として知られ、雪を活用した「雪さらし」も東中江ひがしなかえ和紙加工生産組合の手で復活しました。五箇山和紙の主原料はこうぞという木の樹皮で、これを雪の上に並べてさらすことで、樹皮が漂白され、繊維が柔らかくなって上質な和紙ができます。五箇山に限らず雪国の和紙の産地では日常的な光景でしたが、今は薬品などで代用するところがほとんどで、五箇山でもここでしか見られなくなりました。和紙は「寒すき」といって、冬にすいたものが一番質が良く、五箇山では寒すきの様子を見学することはもちろん、自らが体験することもできます。


雪に埋もれた世界文化遺産・相倉合掌集落(南砺市)

楮の樹皮をはぐ(左)。はいだ樹皮を雪にさらす(中)。塩硝のことを詳しく展示する菅沼集落の「塩硝の館」(右)

冬に訪ねてこそ分かる雪国の自然の魅力


今庄駅構内にあるSL時代の名残を留める建物の脇を大阪行きの「サンダーバード」がすり抜ける

話を今庄に戻しましょう。ここはそば処としても、そば通には知れ渡っています。かつて北陸本線にSLが走っていた頃、峠越えを控えて今庄駅では長い停車時間があり、乗客は待ち時間に駅そばを食べるのを楽しみにしていたそうです。そのそばが評判を呼び、全国に知られるようになりました。昭和37年(1962)に北陸トンネルが開通して駅のそば屋は福井駅へ移転しましたが、旧今庄町内には、県内産のそば粉にこだわり、素朴で風味のよい今庄そばを出す店が6軒もあります。

もともと山間のやせた土地が多いここでは、昔から焼畑 やきはた でそばが作られ、普段はそばがきにして食べ、正月やお祭り、来客があったときなどの特別な日はそば(そば切り)を作ったそうです。つなぎにする自然薯 じねんじょ は春になると芽が出て使えなくなるため、往時、そばは冬だけの楽しみでした。

「囲炉裏にかけられた鉄瓶でそばをさっと湯がき、熱々のまま、冷たい大根おろしと自家製のたまりしょうゆをかけて食べました。熱い麺に辛味大根がよくあい、体が温まりました。出汁をとったり、鰹節をのせたりする今のおろしそばとは違いましたね」とは、今庄観光協会の会長で自らも「今庄 そばの里」を経営される寺田和義さん。囲炉裏端でしんしんと積もる雪を眺めながらいただくそばは、寺田さんでなくても誰もが懐かしいと感じる日本の原風景につながります。自らそば打ちもするという造り酒屋の当主・北村さんも、「そばと酒の相性は抜群。そばをアテ(つまみ)にして一杯やるのが楽しみ」といい、今庄の人たちはそばの話題になると話が尽きません。


今庄のそば道場ではそば打ちが体験できる(左)。今庄そばの醍醐味はこのおろしそば(右)

今庄に限らず、北陸の山間部は大抵、うまい酒とうまいそばがあります。

酒どころならではの冬季限定しぼりたて生酒を、風味の良い新そばといただく――。
窓の外に降り積もる雪を眺めながら。しっぽりと雪を楽しみたい大人におすすめしたい北陸の冬です。

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