北陸物語

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信仰が息づく暮らし

北陸は「真宗王国しんしゅうおうこく」と称され、信仰深い土地柄といわれます。NHKが行った全国県民意識調査(平成8年)によれば、「宗教を信仰していない人の割合の少なさ」で1位が福井県、3位が富山県となったように、信仰心の篤さは数字にも表れています。北陸各地を歩くと、そのような信仰の歴史が培った数々の風習を見かけることができます。

信仰の歴史が培った数々の風習

金沢市のひがし茶屋街周辺を歩くとよく見かけるのが、軒先にかけられたトウモロコシです。行き交う観光客が「なんだろう?」という顔で珍しそうに通り過ぎていきます。

実は金沢市東山にある観音院で毎年夏、その日に参拝すれば46,000日分のご利益があるとされる年中行事「四万六千日しまんろくせんにち」が行われ、この日、観音院で祈祷を受けたトウモロコシを買って帰り、自宅の軒先に吊しておくと家内安全や厄除けのご利益があるといわれているのです。トウモロコシの多い実は家族の繁栄に、そしてふさふさした毛は「儲け」や「魔除け」に通じるというわけです。


信仰が息づくひがし茶屋街(左)。切ったり焼いたりしてはいけないころころ餅(右上)。観音院の「四万六千日」は藩政期以来の宗教行事(右下)

金沢では薄く切って竹串に刺した餅を家に飾る風習もあります。室生犀星が幼少期を過ごした雨宝院のすぐそばにある神明宮しんめいぐうで春と秋に300年以上の歴史を持つ「あぶり餅神事」が行われ、竹串に刺した四角い小さな餅を炭火で焼き、生姜みそのたれで味つけしたあぶり餅が売られます。この時、同時に売られる生タイプのものは家に飾っておくと、悪事災難除けになるといわれているのです。

邪気を払い、幸運をもたらすと考えられた餅は古くから、さまざまなお祝いの席や行事に使われてきました。何かにつけてお菓子を贈る風習がある金沢で、全国的に珍しいのが「ころころと安産できますように」との願いを込めて、出産を控えた娘のいる家が親戚や近所に配る「ころころ餅」です(富山県にも同様の風習があり)。丸くすべすべした餅を生まれてくる赤ちゃんに見立て、餅の形が長いと男の子、丸いと女の子といったふうに餅によって生まれてくる赤ちゃんを占ったりもしていました。こうした暮らしの節目節目に行われる北陸の風習は、信仰の歴史のなかで培われたものです。

ひときわ目を引く巨大ながんもどき


金沢ならではの巨大ながんもどき〔写真は金沢豆冨の「特製ひろず」〕


福井県でポピュラーな「中揚げ」と呼ばれる座布団のような油揚げ

「真宗王国」と呼ばれる北陸では11月から12月にかけて、浄土真宗の寺院で親鸞聖人しんらんしょうにんの命日にちなんだ仏事「報恩講ほうおんこう」が開かれ、聖人の遺徳をしのびます。この時、おときの膳に並ぶのが聖人の好物とされる豆腐の小豆汁をはじめ、こんにゃくの煮しめ、大根とにんじんの酢の物、かた 豆腐(固豆腐)といった精進料理。なかでもひときわ目を引くのが、ぎんなん、きくらげ、れんこん、しいたけなどの具がぎゅうぎゅうと詰まった、金沢で「ひろず」と呼ばれるがんもどきの巨大さでしょう。ものがあふれた現代はともかく、かつての報恩講はご馳走をお腹いっぱい食べられる特別な日でした。ひろずの大きさも、ハレの日ならではの贅沢だったに違いありません。

福井県は油揚げの消費量が日本一の県として知られています。県内では定番の油揚げ料理のほか、おろしそばやラーメンなど、さまざまな料理で油揚げを使います。油揚げもまた、報恩講に欠かせない一品です。福井県民の油揚げ好きは信仰心の篤い土地柄と無縁ではないでしょう。


南砺市の報恩講料理(左)。わらで包んでも崩れない固豆腐(中)。報恩講のお斎の様子〔南砺市〕(右)

暮らしの中心に信仰を置いた家づくり


芸術品としても価値がある金沢仏壇

北陸ではお経の「正信偈しょうしんげ」を暗唱できる人が少なくありません。そんな北陸の人々は昔から、立派な仏壇を持つことを一生の願いとしてきました。こうした土壌によって、金箔や蒔絵まきえ技法をふんだんに活かした、きわめて芸術性の高い金沢仏壇などが生まれています。その一方、北陸の旧家では家のなかで最良の部屋を居間でもなく客間でもなく、仏壇のある仏間としてきました。各家庭で行われる「うちぼんこう」の際、仏間のふすまを外すと、そこを中心に大広間となり、寺院のお堂のように大勢の客を収容できるように工夫されています。暮らしの中心に信仰を置いていたことが家の構造からも分かるでしょう。このように北陸は「おばあちゃんの家の仏間」にいるような、温かく、そしてどこか懐かしい安らぎを感じさせる土地です。

信仰深い北陸を肌で感じられる場所

往時、真宗王国・富山の中核だった南砺市の瑞泉寺ずいせんじは、その堂宇どうう に井波彫刻の原点ともいわれる匠の技が至るところに散りばめられています。また、金沢市の卯辰山 うたつやまのふもとにある卯辰山山麓寺院群の、「心の道」と名づけられた迷路のような路地を歩くと、冒頭に紹介した観音院など数多くの寺社と出会うことができます。福井県の永平寺ではいまも多くの修行僧が日夜修行に励んでいます。これらの場所に赴くと、北陸の信仰の深さを肌で感じることができるでしょう。


井波彫刻の原点といわれる瑞泉寺(左)。7月に太子堂では、寺に伝わる八幅の絵伝で聖徳太子の一生を解説し遺徳を偲ぶ「絵解き」などが行われる(中。)卯辰山山麓寺院群のひとつ、宝泉寺より金沢市街を望む(右)

暮らしの中心に信仰を置いた安らぎを与えてくれる家、そして信仰深い土地柄は、旅行者でも歩くほどに肌で感じることができるはずです。それをちょっとだけ意識して旅をしてみてください。きっと今まで気がつかなかった"本当の北陸の魅力"が見えてくるでしょう。


金沢三大仏の1つで丈六の釈迦如来立像を安置する蓮昌寺〔卯辰山山麓寺院群〕(左)。紅葉に彩られた永平寺(中上)。参拝後に門前町でいただく精進料理も楽しみ(中下)。凛とした空気に包まれる冬の永平寺(右)

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